インドの薄暗い墓場で、ガジュマルの木から逆さまにぶら下がる死体を見たことがありますか?近づいてみると、その死体は赤く光る目でこちらを見つめ、不気味な声で語りかけてくるかもしれません。それがヴェータラ、死体に憑依して操るインドの悪鬼です。彼らは恐ろしい怪物であると同時に、優れた知恵と予言の力を持つ存在としても知られています。
死を纏うもの
死体憑依能力
ヴェータラ自体は実体を持たない霊的な存在(または半神)ですが、埋葬されていない新鮮な死体や、動物の死骸に憑依することで物理的に活動します。憑依された死体は腐敗が止まり、手足は奇妙にねじ曲がり、生きた人間には不可能な奇怪な動きで襲いかかってきます。彼らの棲処である墓場や火葬場は、死と不浄の象徴ですが、彼らにとっては居心地の良い場所なのです。
知識の守護者
しかし、彼らは単なる人食い鬼ではありません。彼らは過去・現在・未来を見通す超常的な知識を持っており、英雄や王を試すトリックスターとしての側面を強く持ちます。最も有名な説話集『屍鬼二十五話(ヴェータラ・パンチャヴィンシャティ)』では、トリヴィクラマセーナ王の背中に負ぶさり、25の難解な道徳的・法的な謎かけを行います。王が正解を言うとヴェータラは元の木に戻ってしまい、黙っていると頭を食い割るという理不尽なゲームを通して、王の知恵と忍耐を試しました。
吸血鬼のルーツ?
ヴァンパイアとの関連
夜闇に紛れて行動し、生き血を好むという性質、空を飛ぶ能力、そして「動く死体」という特徴から、西洋のヴァンパイア伝説の東洋的な源流の一つではないかと考える研究者もいます。しかし、ヴェータラは日光を浴びても灰にはなりませんが、強力なマントラ(真言)や聖なる儀式によって封じ込めたり、従わせたりすることが可能です。彼らは恐怖の対象であると同時に、タントラ教などの秘儀においては強力な守護神ともなり得るのです。
まとめ
ヴェータラは、死への根源的な恐怖と、死者だけが知るかもしれない深淵な叡智への敬意が混ざり合った、インド特有の複雑で魅力的な霊的存在です。彼らの謎かけは、今も私たちの倫理観を問い続けています。