砂漠の熱風の中に佇み、数千年の時を超えてピラミッドを守り続ける巨大なライオンの像、スフィンクス。王の顔とライオンの体を持ち、威厳ある守護者として知られるこの幻獣は、エジプトだけにとどまらず、海を渡ったギリシャ神話の世界では旅人を食い殺す恐ろしい怪物として語り継がれています。「守護」と「恐怖」、二つの顔を持つ謎多き存在、スフィンクスの真実に迫ります。
2つのスフィンクス:神と怪物
エジプト:王の守護者(アンドロスフィンクス)
私たちがよく知るギザの大スフィンクスに代表されるエジプトのスフィンクスは、もともとは王(ファラオ)の偉大さと、百獣の王ライオンの力強さを融合させた神聖な存在です。 一般的に男性の顔(王の顔)をしており、知恵と力の象徴として王墓や神殿の入り口を守護しています。エジプト語では「シェスプ・アンク(生ける似姿)」と呼ばれ、太陽神ラーの化身の一つとも考えられてきました。彼らは人々に害をなすことはなく、むしろ神聖な場所を悪霊から守る、頼もしい番犬ならぬ番ライオンなのです。
ギリシャ:死の謎かけ(ギガントスフィンクス)
一方、この概念が地中海を渡りギリシャに伝わると、その性質は大きく変化しました。ギリシャ神話のスフィンクスは、美しい女性の顔と乳房、ライオンの体、そして鷲の翼を持つ怪物として描かれます。 神々の怒りによってテーベ(ーテバイ)の街の近くにあるフィキオン山に送り込まれた彼女は、通りかかる旅人を捕まえては難解な「謎かけ」を行い、答えられなかった者をその場で食い殺すという、恐怖の対象となりました。「スフィンクス」という名前も、ギリシャ語の「絞め殺すもの(Sphin)」に由来すると言われています。
オイディプスと有名な謎かけ
命を懸けたクイズ
ギリシャ神話において最も有名なエピソードは、英雄オイディプスとの知恵比べです。怪物スフィンクスは、通りかかる人々に次のような謎を出しました。
「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。足の数が一番多い時に、最も弱くなる生き物は何か?」
多くの者が答えられずに餌食となりましたが、賢者オイディプスは即座に答えました。 「それは人間だ」 「赤ちゃんの時は四つん這い(4本足)、大人になれば二足歩行(2本足)、そして老人になれば杖をつく(3本足)からだ」と。
敗北と死
自慢の謎を解かれたスフィンクスは、屈辱のあまり自ら崖から飛び降りて死んでしまった(あるいはオイディプスに退治された)と伝えられています。この物語は、力(ライオンの体)に対する知恵(人間の頭脳)の勝利を象徴する寓話として、長く語り継がれることになりました。 ちなみに、2つ目の謎として「姉は妹を生み、妹は姉を生むものは?」と問い、「昼と夜」と答えられたというバージョンもあります。
現代作品でのスフィンクス
知識の番人
ファンタジーRPGや冒険映画では、古代の遺跡や図書館、魔法のアイテムを守るボスキャラクターとして登場することが多いです。 単に襲ってくるだけでなく、プレイヤーにクイズやなぞなぞを出題し、正解すれば戦闘を回避できたり、レアアイテムをくれたりするという「知恵試しのギミック」として扱われるのがお約束となっています。これは明らかにギリシャ神話の伝承に基づいています。
遊戯王
カードゲーム『遊戯王』では、「スフィンクス・アンドロ」や「スフィンクス・テーレイア」など、エジプト風のデザインを取り入れた強力なモンスターとして多数登場します。ピラミッド状の建造物が変形してスフィンクスになるというメカニカルな描写もあり、古代の神秘と現代のカッコよさが融合しています。
ネバーエンディング・ストーリー
映画『ネバーエンディング・ストーリー』では、黄金に輝く巨大な2体のスフィンクスが登場します。彼女たちの視線は、自分に自信のない臆病者を焼き殺してしまうという「鏡の門」の試練として、主人公アトレーユの前に立ちはだかりました。
【考察】境界の監視者
生と死の境目
ピラミッド(死者の国)の入り口に鎮座するエジプトのスフィンクス。街の入り口で旅人を待ち受けるギリシャのスフィンクス。どちらも共通しているのは、「世界と世界の境界」にいるということです。
彼女たちは、そこを通る者が「先へ進む資格があるかどうか」を選別する監視者です。ギリシャ神話の謎かけも、単なる意地悪ではなく、「人間とは何か(=死すべき運命を持ちながら成長する存在)」という自己認識を問う、通過儀礼のようなものだったのかもしれません。 謎を解く=自分自身を知ることで初めて、人は運命の先(オイディプスの場合は王位への道)へと進むことができるのです。
まとめ
知恵ある者には道を譲り、愚か者には容赦ない死を与える。スフィンクスはいつの時代も、私たち人間の「知性」を、そして「人間としての誇り」を静かに試し続けています。