広大なオーストラリア大陸の水辺には、決して近づいてはいけない場所があります。そこに潜むのはバンニップ(Bunyip)。先住民アボリジニの人々が数千年前から恐れ続けてきた、正体不明の水棲獣です。「悪魔」や「精霊」とも訳されるこの怪物は、夜な夜な不気味な声をあげ、不用意に近づく人間を水底へと引きずり込みます。
定まらない姿
目撃情報の混乱
バンニップの姿については、部族や時代によって証言がバラバラです。
- 犬のような顔をした巨大なアザラシ
- 馬のしっぽを持つ乱暴なカバ
- 長い首を持つ爬虫類
- 一つ目の毛むくじゃらの巨人 共通しているのは、「水辺に棲む」「大きな牙や爪を持つ」「夜行性で人を襲う」という点です。初期の入植者たちもこの生物を本気で恐れ、「オーストラリアには未知の猛獣がいる」と信じていました。
絶滅動物の記憶?
ディプロトドン説
現在最も有力な説の一つが、かつてオーストラリアに生息していた巨大な有袋類ディプロトドンの生き残り説、あるいはその記憶が怪物化したという説です。サイほどの大きさがあった草食動物ですが、沼地で化石がよく発見されることから「沼の怪物」のイメージがついた可能性があります。
アザラシの迷入説
オーストラリア内陸の川に、海からオットセイやヒョウアザラシが迷い込むことがあります。普段見慣れないこれらの生物が、暗闇で不気味な声をあげて暴れる様子が、怪物の正体だったとも考えられています。
子供への戒め
水辺は危険
多くの妖怪伝説と同様、バンニップも「危険な沼や川に子供たちを近づけないため」の語りとして機能してきました。「夜に水辺に行くとバンニップが出るよ」という言葉は、水難事故から身を守るための生活の知恵だったのです。
まとめ
乾燥した大地において、水場は命の源であり、同時に死の危険を孕む場所。バンニップは、その水に対する畏怖が生み出した、オーストラリアの自然の化身なのかもしれません。