せっかく干しておいた漁網や、夜寝る時の蚊帳(かや)が、翌朝になるとズタズタに切れている...。江戸時代の人々は、これを妖怪「網切(あみきり)」の仕業としました。ロブスターのハサミと蛇の体を持つ、奇妙なデザインの妖怪です。
切ることに特化した姿
妖怪キメラ
鳥山石燕によって描かれたその姿は、非常にユニークです。
- 手: カニやサソリのような大きなハサミ
- 頭: 鳥のようなクチバシ
- 体: 蛇のように長く、空を飛ぶ このハサミを使って、漁師の網や、家の蚊帳をチョキチョキと切り刻むのが生き甲斐のようです。特に理由もなく、ただ「切ること」を楽しんでいるかのような行動は、純粋な悪戯心の塊と言えます。
類似の妖怪
髪の毛を切る「黒髪切り」など、江戸時代には「何かを切る妖怪」が幾つか存在しました。これらは不可解な破損事故を説明するための存在でした。網が切れていれば「網切のせい」、髪が切れていれば「髪切りのせい」にすることで、人々は納得していたのです。
実害の恐怖
経済的ダメージ
現代人にとっては「ただのイタズラ」に思えますが、当時の漁師にとって網は高価な商売道具であり、蚊帳はマラリアなどの病気を防ぐ生命線でした。網切は、地味ながらも生活を脅かす「貧乏神」的な恐ろしさを持っていたのです。
キャラクターしての網切
水木しげるの影響
『ゲゲゲの鬼太郎』では、鋭いハサミを武器に戦う戦闘向きの妖怪として描かれることがあり、フィギュア化もされるなど人気があります。その独特のフォルムは、一度見ると忘れられない魅力があります。
【考察】節足動物の誤認?
アミキリ虫
実在する昆虫で「アミメカゲロウ」や、カミキリムシなどが、網を噛みちぎる犯人だった可能性もあります。小さな虫の被害を、妖怪として大きく想像したのが網切の正体かもしれません。
まとめ
網切は、日常の道具が壊れるという「生活のストレス」が生み出した、江戸時代のユーモラスな妖怪です。