眠っている時に胸が苦しくなり、体が動かなくなる「金縛り」。ドイツの伝承では、これは「アルプ(Alp)」という妖精が胸に乗っているせいだと考えられてきました。英語の「Elf(エルフ)」と同語源ですが、その性質は遥かに意地悪で、吸血鬼に近いものです。
変身する夢魔
蝶になって侵入
アルプは変身能力に長けています。猫、豚、犬、蛇などの姿をとりますが、最も特徴的なのは白い蝶になって鍵穴から寝室に侵入することです。そして元の姿(奇妙な帽子をかぶった小人など)に戻り、寝ている人の胸にどっかと座り込みます。
圧迫と吸血
胸に乗られると、被害者は呼吸ができなくなり、恐ろしい悪夢を見ます(これが「ナイトメア」の語源の一つとも言われます)。さらにアルプは、男女問わず乳首から血を吸うとも言われ、吸血鬼の一種としても扱われます。
アルプの撃退法
靴のつま先
アルプを防ぐには、ベッドの前に靴を置く際、つま先をドアの方に向けると良いとされます。また、もし夜中に目覚めてアルプを捕まえることができれば、朝にはその正体が何なのか(近所の人間が呪いで変身していた、など)が分かると言われています。
現代ファンタジーでのアルプ
アンデッドとしての扱い
『悪魔城ドラキュラ』シリーズなどでは、エルフではなく、幽霊や小悪魔に近い敵として登場することが多いです。ドイツ語圏での知名度は高いですが、日本ではサキュバスなどに比べてマイナーな存在です。
【考察】睡眠麻痺の説明
医学的根拠
睡眠時無呼吸症候群や睡眠麻痺の症状(胸部の圧迫感、幻覚)を、超自然的な存在の仕業として説明しようとした典型例です。「エルフ」という言葉が、時代とともに「美しき森の住人」と「夜の悪魔」に分岐していった過程も興味深いです。
まとめ
アルプは、私たちの眠りを妨げる生理現象に人格を与えた、古くて新しい「夜の同居人」です。