持ち主が寝ている間に、ひとりでに鞘から抜け出して鬼を退治する。そんな漫画のような伝説を持つのが、天下五剣の一つ鬼丸国綱です。鎌倉時代の名工、粟田口国綱によって作られました。この刀は、北条家、足利家、織田家、豊臣家、徳川家と、時の最高権力者の元を渡り歩いてきた、本物の「天下人の刀」です。所有者の没落を見届けるかのような数奇な運命も、この刀の神秘性を高めています。まるで刀自身が持ち主を選んでいるかのようです。天下五剣の中でも、そのエピソードの特異さは際立っています。
火鉢の鬼退治
北条時政の悪夢
鎌倉幕府の執権・北条時政は、毎晩小鬼に苦しめられる夢を見て体調を崩していました。ある夜、夢に老人が現れ「私の体が汚れているので綺麗にしてくれれば鬼を倒そう」と告げました。時政が秘蔵の太刀(国綱)を見ると、確かに錆びていたため、綺麗に手入れをして部屋に立てかけておきました。
錆を落とした結果
すると、刀がひとりでに倒れて火鉢の足を切り落としました。その足は銀で作られた鬼の形をしており、以来、時政の悪夢はぴたりと止んだといいます。このことから「鬼丸」と名付けられました。刀自体に意思が宿っているかのような、不思議なエピソードです。時政公を救った忠義の剣として、北条家では代々大切にされました。妖刀ではなく、主を守る霊刀としての性格が強いのが特徴です。
名前の継承
「鬼丸」という名前は非常に人気があり、後の戦国武将たちも自分の刀に似たような名前を付けることがありました。しかし、本家の鬼丸国綱の伝説を超える刀は現れていません。それほどまでに、この逸話は人々の心に強く残っているのです。
皇室の御物
国宝指定はない?
鬼丸国綱は現在、皇室の私有財産である「御物(ぎょぶつ)」として宮内庁が管理しています。そのため、国宝や重要文化財の指定を受けていませんが、その価値は国宝級、あるいはそれ以上です。一般公開される機会は極めて稀ですが、日本の刀剣史上、最も重要な一振りであることは間違いありません。まさに雲の上の存在と言える名刀です。
まとめ
主人の危機を救う忠義の刀、鬼丸。人間を守るために自ら動くその意志は、作った刀工の魂が宿っているからなのかもしれません。