中世スペイン、キリスト教とイスラム教の勢力が激突した「レコンキスタ(国土回復運動)」の時代。敵であるイスラム教徒から、尊敬を込めて**「アル・シッド(主人)」**と呼ばれた男がいました。彼の名はロドリゴ・ディアス・デ・ビバール。主君に追放され、浪人となってもなお、己の剣と才覚だけでバレンシアを征服し、王となった不屈の英雄です。
王に疎まれた最強の騎士
追放の憂き目
カスティーリャ王国の騎士として数々の武功を立てましたが、その名声を嫉妬した貴族たちの讒言により、王アルフォンソ6世から追放処分を受けてしまいます。故郷を追われ、財産も没収されましたが、彼の部下たちは喜んで彼について行きました。エル・シッドの人徳は王を凌駕していたのです。
傭兵からの成り上がり
追放された彼は、なんと敵対していたサラゴサのイスラム教国の傭兵隊長となります。ここで彼はキリスト教徒軍を撃破するという皮肉な戦果を挙げますが、宗教にこだわらず「有能な主君に仕え、信義を守る」という姿勢を貫きました。
バレンシアの征服者
独自の王国
その後、自力で勢力を拡大し、難攻不落の都市バレンシアを攻略。事実上の独立国の君主となりました。愛馬バビエカにまたがり、名剣ティソナとコラーダを振るう彼の姿は、敵軍にとって恐怖の象徴でした。
死せるシッド、敵を走らす
有名な伝説では、シッドが戦死した後、妻のヒメナが彼の遺体を鎧で固めて馬に乗せ、戦場に送り出したとされます。敵軍は「死んだはずのシッドが生き返った!」とパニックに陥り、総崩れになったといいます。死してなお勝利をもたらした英雄の物語です。
叙事詩『わがシッドの歌』
スペイン文学の最高峰
彼の死後、吟遊詩人たちによって『わがシッドの歌(Poema de mio Cid)』が歌い継がれました。これはスペイン最古の叙事詩であり、騎士道の理想像として語り継がれています。
Age of Empires II
名作RTSゲームのキャンペーンシナリオとしても有名です。追放から始まり、イスラム勢力と協力したり戦ったりしながら、最後はバレンシアを守り抜く激動の人生を追体験できます。
【考察】共存の象徴として
寛容な統治
バレンシアでの彼は、キリスト教徒とイスラム教徒の共存を認め、公正な統治を行ったと言われています。狂信的な対立の時代において、現実的かつ人間的な彼の生き方は、現代においても学ぶべき点が多い英雄です。
まとめ
王には恵まれなかったが、部下と民衆には愛された男。エル・シッドは、権威ではなく実力と人格で歴史を動かした、真の「主人(シッド)」でした。