その素顔は銀の仮面の下に隠され、肉体は病魔に蝕まれていました。しかし、その魂は誰よりも高潔で強力でした。エルサレム王ボードゥアン4世。「癩王(らいおう)」と呼ばれた彼は、イスラムの英雄サラディンさえも恐れさせた、十字軍史上最も奇跡的な勝利を収めた若き王です。
呪われた王の苦悩
痛覚の喪失
彼が9歳の時、友人たちと互いの腕をつねり合う遊びをしていて、彼だけが痛みを感じていないことに教師ギヨーム・ド・ティールが気づきました。診断結果は、当時「天罰」とも恐れられた不治の病、ハンセン病でした。
仮面の下の真実
病は次第に彼の皮膚を壊死させ、視力を奪い、手足の感覚を麻痺させました。彼は人前に出る際、その崩れゆく顔を隠すためにヴェールや銀の仮面をつけていたとされ(映画『キングダム・オブ・ヘブン』での描写が有名です)、右手が動かなくなると、馬の手綱を体に縛り付けて戦場に立ち続けました。
モンジザールの奇跡
16歳の英雄
1177年、サラディン率いる2万6千のイスラム大軍がエルサレムに迫りました。対するボードゥアンの手勢はわずか数千(騎士は約400名)。撤退を進言する部下に対し、彼は攻撃を選択しました。
病痛に耐えながら前線に立った彼は、聖遺物「真なる十字架」の前で涙ながらに祈りを捧げ、全軍に突撃を命じました。鬼神の如き勢いで突っ込んだエルサレム軍は、油断していたサラディン軍を壊滅させました。サラディン自身も命からがら逃げ延びたという、圧倒的な勝利でした。
サラディンの敬意
敵将サラディンは、この若き王の勇気と指導力に深い敬意を抱き、彼が生きている間はエルサレムへの大規模な侵攻を躊躇したといいます。彼の存在こそが、王国の防壁そのものでした。
まとめ
24歳という若さで崩御したボードゥアン4世。肉体の苦痛を超越し、精神の力で国を守り抜いた彼の生涯は、人間の意志がいかに強靭になれるかを示す永遠の証明です。