スタジオジブリの映画『もののけ姫』に登場するタタラ場。その炉の神様として、古くから日本の中国地方を中心に、製鉄に従事する「村下(むらげ)」たちから絶対的な信仰を集めた女神が**金屋子神(カナヤゴカミ)**です。彼女は高天原から白鷺(シラサギ)に乗って降りてきて、人々に鉄の作り方を教えたという伝説を持ちます。極度の「犬嫌い」としても知られる、ちょっと気難しいけれど職人たちには慈悲深い、鉄の女王の物語です。
白鷺と鉄の伝説
舞い降りた女神
伝説では、彼女はもともと播磨国(兵庫県)の岩鍋という場所に降りましたが、そこには安住の地がなく、白鷺に乗って西へ飛び去りました。そして出雲国の黒田(島根県安来市)の山林に舞い降り、桂の木で羽を休めていたところを地元の長者(安倍正重)に見つけられました。彼女は長者にタタラ(製鉄炉)を築かせ、砂鉄から鋼を作り出す秘法を伝授したといいます。これが日本のたたら製鉄の起源とされています。
厳格なタブーと慈悲
金屋子神は非常に嫉妬深く、またきれい好きな女神です。そのため、かつてのタタラ場は女人禁制であり(自分以外の女性が入るのを嫌う)、死の穢れを嫌いました。しかし不思議なことに、タタラのために死ぬことだけは許され、事故死した職人の遺体は炉のそばを通しても良いとされました。彼女は命がけで働く職人たちを我が子のように愛していたのです。
また、彼女が降臨する際に犬に吠えられて驚いて落ちた、あるいは犬に噛まれたという逸話から、犬と、犬を縛る麻縄は大の苦手とされています。たたら場では犬を飼うことが固く禁じられていました。
金屋子神社と広がり
全国の製鉄業者を守る
総本社である安来市の金屋子神社には、現在でも大手製鉄会社や刃物メーカーの関係者が多く参拝します。「鉄は国家なり」と言われた近代以前から、日本のモノづくり産業の根幹を支えてきたのは、このミステリアスな女神への信仰だったのです。
まとめ
炎と鉄が支配する過酷なタタラ場。そこで働く男たちの心の支えとなった金屋子神は、厳しい規律と技術の両方を司る、まさに鉄の母と呼ぶにふさわしい存在です。