中秋の名月に見上げれば、そこに彼女がいるかもしれません。夫を置いて一人で月へ昇ってしまった美女、嫦娥(じょうが)。彼女は月の宮殿で、不老不死の体を持て余しながら、今も静かに地球を見つめている、孤独な月の精霊です。
嫦娥とはどのような神か?
中国神話に登場する月の女神です。元は弓の名手・后羿(こうげい)の妻で、絶世の美女でした。西王母から授かった不老不死の霊薬を(夫の分まで、あるいは夫から守るために)一人で飲んでしまい、体が軽くなって月に昇って仙女となりました。月には「広寒宮」という宮殿がありますが、そこは寒く、住んでいるのは薬を搗く玉兎と、一本の桂の木だけ。彼女は永遠の命と引き換えに、永遠の孤独を手に入れたのです。
神話でのエピソード
ヒキガエルになった?
古い伝承では、彼女は霊薬を盗んだ罰として、月でヒキガエル(ガマ)の姿に変えられてしまったとも言われます。美しい仙女の姿と、醜いヒキガエルの姿。この二面性は、月の「美しさ」とクレーターの「不気味さ」の両方を表しています。
猪八戒の片思い
『西遊記』に登場する猪八戒は、元は天界の水軍大将でしたが、宴会で酔っ払って嫦娥にセクハラをした罪で、天界を追放されて豚の妖怪になりました。彼女の美貌は、神さえも狂わせるのです。
信仰と文化への影響
中秋節と月餅
中国や日本で秋にお月見をする(中秋節)のは、彼女を祀る風習が起源の一つです。月餅は彼女への供え物から発展しました。
探査機・嫦娥
中国の月探査プロジェクトの名前は「嫦娥計画」であり、探査機には「嫦娥号」、月面車には「玉兎号」という名が付けられています。科学の時代になっても、月は彼女の領域なのです。
【考察】その本質と象徴
完璧な美の代償
彼女の物語は、「不老不死」や「美」といった人間の欲望の到達点が、実は冷たく寂しいものであることを教えてくれます。人間の温もりがある地上と、美しくも孤独な月。どちらが幸せなのでしょうか。
まとめ
夜空に浮かぶ白い満月。それは彼女のため息が凍りついたものなのかもしれません。